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骨の組織観察から骨代謝制御へ -骨粗鬆症研究の歩み-

2013年12月13日

 

骨の組織観察から骨代謝制御へ -骨粗鬆症研究の歩み-

国立国際医療研究センター病院長

中村利孝

 

 私が骨の研究を始めたのは1980年代の初めころです。当時の骨組織は研磨標本で観察されていました。適当な大きさの骨ブロックを、まず“糸鋸”で1㎜前後の厚さに切断します。さらに、砥石とサンドペーパーの間に挟んで水をたらしながら30ミクロン前後まで研磨し、顕微鏡で観察できるようにするというものでした。午後から夜にかけて、1枚の切片がようやく透けて見えるくらいに研磨できたと思ったら、パリンと割れてお終いというようなことの連続でした。それでも、できた切片をフクシンで染色して観察したときに見られる、骨の層板構造の美しさには、感動を覚えたものでした。その後、1980年代半ばから、硬組織用のミクロトームが普及し、切片の作成は容易になりました。

 

 骨組織はミネラル化骨と非ミネラル化骨(類骨)に分けられます。この割合は部位による変化があまりありません。骨芽細胞や破骨細胞の骨組織表面に占める割合も、ほぼ一定です。この理由は、1980年代の後半から急速に進歩した骨組織のマイクロラジオグラフィーから、明らかになってきました。研磨切片を超軟X線透過陰影像でみると、外殻部分の皮質骨はオステオンと呼ばれる直径100-150μの円柱構造体の集合からなり、内部の海綿骨部分では、幅50-70μ、長さ1-2㎜の舟形をした微小構造(パケット)が、ランダムに入り混じっているように見えます(図)。また、海綿骨のパケットのサイズは、皮質骨のオステオンをほぼ半分に縦切りにしたものに相当するように見えます。こうして、皮質骨と海綿骨は、それぞれ、オステオンとパケットと呼ばれる微小構造体のモザイクであることが、理解されるようになりました。微小構造体のサイズが一定であることは、骨組織が吸収された場所に正確に一致して、吸収された量とほぼ同じ量の骨組織が添加されるという、破骨細胞と骨芽細胞の連関した機能単位の存在を示唆します。モザイクであることは、この連関機能が繰り返し行われていることの証です。骨におけるリモデリングの発見です。

 

1990年代にはいり、骨のリモデリングを遂行する破骨細胞と骨芽細胞集団の機能連関について、共存培養系による破骨細胞誘導や培養上清中の生理活性物質の分析が進みました。さらに、分子生物学的手法の導入により、骨芽細胞、破骨細胞の分化に関与するシグナル分子が次々に、明らかになっていきました。破骨細胞ではRANKL, M-CSF, CSF-1, c-Src, c-Cbl, Rhoなどであり、骨芽細胞ではRunx2, Osterix, NFATce1, TGF-b, BMP, Smad, などです。また、骨芽細胞は骨髄の間葉系幹細胞から、破骨細胞は骨髄の細胞から分化することが確認されたのも、この頃です。我が国の骨研究は、この時期、尾形悦郎先生、須田立雄先生などのリーダーシップのもとで、大きく進歩しました。とくに、破骨細胞の研究は現在でも、東大の田中栄教授、高柳広教授などに引き継がれ、世界をリードしています。

 

2000年代に入り、血液中の単球から破骨細胞が分化すること、骨芽細胞前駆細胞が流血中にあることなどが、確認されるようになりました。さらに、精密な組織学的観察により、骨組織と骨髄は一層の細胞性の膜で隔たれており、骨髄に由来する前駆細胞の一部は流血中に入り、全身を循環して骨の局所に達することも明らかになりました。骨折治癒など局所的な骨代謝の制御にも、全身的なレベルでの骨代謝制御が関連していることが明確になってきました。また、糖化による骨基質コラーゲン架橋の変化、非コラーゲン蛋白のカテプシンKによる制御などが、明らかになりました。さらに、骨細胞(osteocyte)がスクレロスチン、FGF23など強力な骨代謝制御物質を産生し、骨の荷重に対する反応の司令塔的役割を果していることも明らかになり、現在に至っています。

 

このような基礎研究の成果を背景にして、ビスホスホネート、エストロゲン受容体調整剤など、破骨細胞機能を抑制して骨の量と構造を維持・強化する薬物が発見され、骨粗鬆症治療薬として使用できるようになりました。さらに、副甲状腺ホルモン、抗RANKL抗体製剤デノスマブなど、まさに骨研究の成果の直接の産物が、薬物として登場してきました。近い将来、カテプシンK阻害剤,抗スクレロスチン抗体製剤なども、強力な骨粗鬆症治療薬として登場してくるものと期待されます。骨粗鬆症で骨折した患者さんの骨組織切片の作成に悪戦苦闘していたころの私には、思いもよらないことです。私は、単純に、骨組織の層板構造の美しさに魅せられ骨の研究に入りましたが、このような大きな発展の流れに身をおけたことは、ラッキーであったと思います。若い皆さんが、それぞれの研究分野をお決めになる動機は種々でしょうが、“美しい”、“何となく好きだ”というような単純な動機に従っても、結構、楽しく刺激的な生活が送れるものと思います。常に楽天的であれば、力は何倍にもなります。研究所の若い皆さんのご活躍を期待しています。

 

 

図.骨組織切片のマイクロラジオグラフィ-像


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