企業・研究機関の方へ

注目論文

胸腺微小環境の新機能 – 炎症性T細胞のレパトア形成 –

2015年6月17日

(要旨)

 【研究の背景】

 T細胞(Tリンパ球)は、その抗原受容体によって多様な病原体や腫瘍の成分を認識し、獲得免疫(適応免疫)の中心的役割を担っています。T細胞の分化と抗原受容体レパトア(レパートリー)の形成は、胸腺という特殊な器官において行われます。胸腺は特殊な組織微小環境をもち、未熟T細胞の分化、有用T細胞の選抜、自己反応性T細胞の除去などを制御することでT細胞免疫システムを形づくっています。しかし、それらの詳しい分子機構は未だ解明されておらず、基礎医学研究における重要課題のひとつとなっています。

 【本研究の概要・意義】

 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター研究所、免疫病理研究部の鈴木春巳部長および新田剛室長(当時)らは、これまで知られていなかった胸腺微小環境による炎症性T細胞の制御機構を発見しました。

 胸腺の微小環境は皮質と髄質に分けられ、それぞれ機能の異なる胸腺上皮細胞(皮質上皮細胞と髄質上皮細胞)によって構成されています。研究チームは、独自に発見した自然変異マウス(TNマウスと命名)が胸腺の低形成とT細胞の著しい減少を示すことに着目しました。次世代シークエンスとゲノム編集技術による解析の結果、TNマウスは皮質上皮細胞特異的に発現するPsmb11遺伝子に変異をもち、この変異が皮質上皮細胞の細胞死を誘導することがわかりました。従って、TNマウスは皮質上皮細胞を特異的に欠損する、胸腺皮質微小環境の研究に有用なモデル動物といえます。

 TNマウスでは、胸腺におけるabT細胞の減少とレパトア変化がみられました。また興味深いことに、IL-17産生能をもつgdT細胞(gdT17)のレパトアも変化していました。gdT17細胞は、乾癬などの自己免疫疾患を引き起こす炎症性細胞として近年注目されている、非典型的T細胞の一種です。TNマウスでは皮膚や肺におけるgdT17細胞のレパトアが変化しており、これらの変化と相関して、結核菌構成成分TDMによる肺炎の亢進や、イミキモド誘発乾癬様皮疹の減弱、といった炎症応答の著しい撹乱がみられました。

 以上の結果より、胸腺皮質上皮細胞は、通常のabT細胞だけでなく炎症性gdT細胞のレパトア選択を制御し、局所の炎症応答の調節に寄与することが明らかになりました(図1)。

1.注目の論文図

【今後の展望】

 本研究から、胸腺の微小環境が炎症性gdT細胞の分化を制御するという全く新しい知見が得られました。現在、特定のgdT細胞を選択する細胞間シグナルの同定を試みるとともに、gdT細胞自身のシグナル伝達経路についても研究を進めています。本成果は胸腺におけるT細胞分化の分子メカニズムの理解に大きく貢献し、自己免疫や炎症性疾患の病態理解と治療法開発につながると期待されます。

【発表雑誌】

雑誌名:EMBO Reports

著者・論文名:Nitta T et al. The thymic cortical epithelium determines the TCR repertoire of IL-17-producing gdT cells.

掲載日:2015年5月1日号(オンライン掲載 2015年3月13日)

【参照URL

http://embor.embopress.org/content/16/5/638

《本件に関するお問合せ先》

国立国際医療研究センター研究所 肝炎・免疫研究センター 免疫病理研究部

責任著者役職名 部長  鈴木 春巳(すずき はるみ)

電話・FAX:047-373-5539

E-mail: hsuzuki@ri.ncgm.go.jp

〒272-8516 千葉県市川市国府台1-7-1 肝炎・免疫研究センター Rm. 312

図1 胸腺では、皮質上皮細胞による正の選択と、髄質上皮細胞による負の選択によって、abT細胞の抗原受容体レパトアがつくられる。本研究の成果により、皮質上皮細胞はgdT17細胞のレパトア形成をも制御することが明らかになった。gdT17細胞は末梢組織で炎症性サイトカインIL-17を産生することで、炎症応答に重要な役割を担っている。


注目論文
最近の投稿
国立国際医療研究センター
ページの先頭へ戻る